この法案が定める人権侵害とはなんでしょう?
その概略を以下に示します。
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法案で人権侵害に言及してるところは大きく2箇所。
第三条()と第四十ニ条()です。
これらの条文は他の条文を多数参照してて、全体が分かりにくいので参照している条文を取り込んで一本化してそれぞれの人権侵害を要約してみます。


まず、この章では省略できない用語の定義を先にしておきましょう。
用語の定義は第二章()にあります。
ここで定義されている用語を先にピックアップしてみます。

人権侵害
「不当な差別、虐待その他の人権を侵害する行為」
社会的身分
「出生により決定される社会的な地位」
傷害
「長期にわたり日常生活又は社会生活が相当な制限を受ける程度の身体障害、知的障害又は精神障害」
疾病
「その発症により長期にわたり日常生活又は社会生活が相当な制限を受ける状態となる感染症その他の疾患」
人種等
「人種、民族、信条、性別、社会的身分、門地、障害、疾病又は性的指向」


第三条に書かれているもの
1.第三条一項一号イ

第三条 何人も、他人に対し、次に掲げる行為その他の人権侵害をしてはならない。
一 次に掲げる不当な差別的取扱い
イ 国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する者としての立場において人種等を理由としてする不当な差別的取扱い

要約:

公務員がその立場において「人種、民族、信条、性別、社会的身分、門地、障害、疾病又は性的指向」を理由にして差別的な取り扱いをすることを禁止します。

これには例えば
・外国人であることを理由に郵便貯金口座の作成を拒否
・血友病患者であることを理由に市営プールへの入場を拒否
・オーム真理教徒であることを理由に市への転入を拒否
などが該当します。


2.第三条一項一号ロ

第三条 何人も、他人に対し、次に掲げる行為その他の人権侵害をしてはならない。
一 次に掲げる不当な差別的取扱い
ロ 業として対価を得て物品、不動産、権利又は役務を提供する者としての立場において人種等を理由としてする不当な差別的取扱い

要約:

物やサービスなどを売ってお金を貰うような商行為をする人が、[人種、民族、信条、性別、社会的身分、門地、障害、疾病又は性的指向]を理由に差別的な取り扱いをすることを禁止します。

これには例えば
・不動産屋が「外国人入居お断り」と入居を拒否
・ホテルが障害者であることを理由に宿泊拒否
などが該当します。


3.第三条一項一号ハ

第三条 何人も、他人に対し、次に掲げる行為その他の人権侵害をしてはならない。
一 次に掲げる不当な差別的取扱い
ハ 事業主としての立場において労働者の採用又は労働条件その他労働関係に関する事項について人種等を理由としてする不当な差別的取扱い(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四十七年法律第百十三号)第八条第二項に規定する定めに基づく不当な差別的取扱い(*1)及び同条第三項に規定する理由に基づく解雇を含む。)


第八条 事業主は、労働者の定年及び解雇について、労働者が女性であることを理由として、男性と差別的取扱いをしてはならない。
2 事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。
3 事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、出産し、又は労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項若しくは第二項の規定(*2)による休業をしたことを理由として、解雇してはならない。
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律


第六十五条 使用者は、六週間(多胎妊娠の場合にあつては、十四週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。
2) 使用者は、産後八週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後六週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。
3) 使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。
労働基準法


要約:

事業主として労働者の採用や労働条件など労働関係に関する事で、[人種、民族、信条、性別、社会的身分、門地、障害、疾病又は性的指向]を理由として差別的取扱いを禁止します。
その中には女性であることを理由に解雇することや、女性の妊娠、出産での休職を理由に解雇することも含まれます。

これには
・エイズ検査陽性であることを理由に雇用を拒否
・外国人であることを理由に解雇
などが含まれます。
ただし、公務員は憲法および国家公務員法、地方公務員法の縛りがあるため、特に人種、民族に関してはこの限りではありません。


4.第三条一項二号イ

第三条 何人も、他人に対し、次に掲げる行為その他の人権侵害をしてはならない。
二 次に掲げる不当な差別的言動等
イ 特定の者に対し、その者の有する人種等の属性を理由としてする侮辱、嫌がらせその他の不当な差別的言動

要約:

他人に対して[人種、民族、信条、性別、社会的身分、門地、障害、疾病又は性的指向]を理由として侮辱や嫌がらせその他の差別的言動を禁止します。

これには
・「お前は○○人だからバカなんだよ」という発言
・「あいつは××教徒だから仲間に入れるのやめよう」という仲間はずれ
・「あいつ精神障害でムカつくからイタ電してやれ」という行動
などが該当します。
要するに個人の[人種、民族、信条、性別、社会的身分、門地、障害、疾病又は性的指向]の属性を理由として、本人が嫌がることをするなってことです。
人種等の属性を理由としない行動はその範疇に含まれません。
また、不特定多数に対する言動はその範疇に含まれません


5.第三条一項二号ロ

第三条 何人も、他人に対し、次に掲げる行為その他の人権侵害をしてはならない。
二 次に掲げる不当な差別的言動等
ロ 特定の者に対し、職務上の地位を利用し、その者の意に反してする性的な言動

要約:

部下に対して自分の地位を利用して行うセクハラを禁止します。

要するにセクハラです。


6.第三条一項三号

第三条 何人も、他人に対し、次に掲げる行為その他の人権侵害をしてはならない。
三 特定の者に対して有する優越的な立場においてその者に対してする虐待

要約:

親子や上司部下、老人介護施設の入居老人と職員など、優位な立場において行われる虐待を禁止します。

要は虐待はするなと言うことです。


7.第三条ニ項一号

第三条 何人も、他人に対し、次に掲げる行為その他の人権侵害をしてはならない。
2 何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
一 人種等の共通の属性を有する不特定多数の者に対して当該属性を理由として前項第一号(*1)に規定する不当な差別的取扱いをすることを助長し、又は誘発する目的で、当該不特定多数の者が当該属性を有することを容易に識別することを可能とする情報を文書の頒布、掲示その他これらに類する方法で公然と摘示する行為

*1
公務員の人権侵害
商売における人権侵害
雇用のおける人権侵害

要約:

[人種、民族、信条、性別、社会的身分、門地、障害、疾病又は性的指向]の属性を共通してもつ不特定多数の人に、このような人権侵害を助長したり誘発したりを狙って、ある人がその属性を持つかどうかを用意に判別できる情報を頒布(配ったり)、掲示(貼り出したり)その他これらに類する方法(HPに出したりチェーンメール送ったり)で多くの人の目に晒すようなことを禁じます。

ちょっとややこしいですが、限定された人権侵害を広く起こそうとする目的で、特定の人が「その属性を持ちますよ」という情報を公表しちゃいかんよ。ということです。


8.第三条ニ項ニ号

第三条 何人も、他人に対し、次に掲げる行為その他の人権侵害をしてはならない。
2 何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
二 人種等の共通の属性を有する不特定多数の者に対して当該属性を理由として前項第一号に規定する不当な差別的取扱い(*1)をする意思を広告、掲示その他これらに類する方法で公然と表示する行為

*1
公務員の人権侵害
商売における人権侵害
雇用のおける人権侵害

要約:

[人種、民族、信条、性別、社会的身分、門地、障害、疾病又は性的指向]の属性を共通してもつ不特定多数の人に、このような人権侵害を行おうとする意思を、頒布(配ったり)、掲示(貼り出したり)その他これらに類する方法(HPに出したりチェーンメール送ったり)で多くの人の目に晒すようなことを禁じます。

7に似てますが、限定された人権侵害をやりますよという意思表示を公表しちゃいかんよ。ということです。


第四十二条に書かれているもの
先に四十二条の柱書きを見ておきます。
.第四十二条

第四十二条 人権委員会は、次に掲げる人権侵害については、前条第一項(*1)に規定する措置のほか、次款から第四款(*2)までの定めるところにより、必要な措置を講ずることができる。ただし、第一号中第三条第一項第一号ハ(*3)に規定する不当な差別的取扱い及び第二号中労働者に対する職場における不当な差別的言動等については、第六十三条の規定(*4)による措置に限る。

*1 後のエントリで触れますが、一般救済措置と言われるものです。

*2 これも後のエントリで触れますが、特別救済措置と言われるものです。

*3 これも後のエントリで触れますが、人権侵害の救済として人権委員会が訴訟に参加できるとしたものです。

要約:

人権侵害は次の場合においては、一般救済に留まらず、もう一歩踏み込んだ特別人権救済を行うことができます。
ただし、事業主として労働者の採用や労働条件など労働関係に関する事における人権侵害や、労働者に対する不当な差別に関しては人権侵害の勧告や、人権侵害に関する損害賠償請求訴訟に参加する事しかできません。

いきなりややこしいのですが、要するに第四十二条一項の次以降で挙げるケースについては、一般救済措置だけに限らず特別人権救済措置も行うことができますが、労働関係に関するものに関しては立ち入り調査や仲裁、調停を行うことができず、勧告とその人権侵害に対する賠償訴訟に参加することに限るとしたものです。
これを抑えて四十二条で掲げるケースを読み解いて行きましょう。


9.第四十二条一項一号

一 第三条第一項第一号に規定する不当な差別的取扱い

要約:

公務員の公務での人権侵害商売人の商取引での人権侵害は特別人権救済の対象となります。


10.第四十二条一項ニ号イ

二 次に掲げる不当な差別的言動等
イ 第三条第一項第二号イに規定する不当な差別的言動であって、相手方を畏怖させ、困惑させ、又は著しく不快にさせるもの

要約:

他人に対して[人種、民族、信条、性別、社会的身分、門地、障害、疾病又は性的指向]を理由として侮辱や嫌がらせその他の差別的言動を行うことによって、被害者を恐れさせたり困惑させたり極めて不快な思いをさせることは特別人権救済の対象になります。

これはもちろん対象は個人に限定されており、不特定多数に対する言動は該当しません。


11.第四十二条一項ニ号ロ

二 次に掲げる不当な差別的言動等
ロ 第三条第一項第二号ロに規定する性的な言動であって、相手方を畏怖させ、困惑させ、又は著しく不快にさせるもの

要約:

部下に対して自分の地位を利用して行うセクハラで、被害者を恐れさせたり困惑させたり極めて不快な思いをさせることは特別人権救済の対象になります。


(・∀・)牛歩のススミ!