小沢主義 志を持て、日本人

  1. 選挙の重さ
  2. 政治不在の国・日本
  3. 「お上意識」からの脱却
  4. リーダーの条件
  5. 21世紀、日本の外交
  6. 日本復活は教育から

全体的には理想論と現実論の間でバランスよく書いてあって、正直安倍晋三の美しい国へより面白かった。
まぁ本の内容と行動が恐ろしく一致してないのが悲しいところですが。

第一章 選挙の重さ

戸別訪問と街頭演説(辻立ち)の重要性を述べながら自説を紹介しつつ、タレント議員や人気優先での選挙活動や、特定の組織に依存した選挙活動を痛烈に批判している。
この章で語られている内容は農業政策を語られている部分を除けばまぁその通りなんだろうなという内容が多い。
ただ民主党は過去に大橋巨泉を担いだ事があるし、学歴詐称で引責辞任した古賀潤一郎もテニスプレイヤーだから似たようなもんだろう。
両者の選挙とも党役員になっていなかったから*1ともかくとしても、次期以降、民主党がこれらの手法を取る事は完全に禁じ手となったと思ってもいいだろう。このへんは覚えておこう。
というか、最高の皮肉は民主主義と選挙を重要視している小沢本人が無投票で民主党党首に再任したことか。

第二章 政治不在の国・日本

小沢一郎が自民党を離れた理由の二大政党制への思いが語られていて、政策論争の重要性が全編にわたって語られている。
んじゃ、こんなのとかこんなのが民主党の言う政策論争ですかと問い詰めたいとこですが。

第三章 「お上意識」からの脱却

全体的に官僚主導の政治と、お上への依存を持ち続ける国民への苦言と言った感じ。
まあそれはその通りなんですが、官僚の協力が得にくくなった小沢民主党がどんな法案を持ち出すかは今後観測が必要なところでしょう。

第四章 リーダーの条件

小沢一郎はこの章でリーダーの条件として次の3つを挙げている。

僕が第一番に挙げたい「リーダーの資質」とは、先ほどの話とも重なるが「志」を持っているということである。
志とはビジョン、夢、あるいは理想と言い換えてもいいだろう。
(P120)
リーダーの資質として二番目に挙げたいのは、自立した人間、主体性を持った人間であることだ。
もっと分かりやすい言葉で言い換えるならば、自分自身の価値観をしっかり持ち、他人の意見に惑わされることなく自分の頭で物事を判断できる、という事である。
(P123)
リーダーに求められる資質の第三は、自分なりのビジョンを持つために不可欠な広い視野と先見性を持つことだ。
(P129)
最後にリーダーに求められる資質として僕が挙げておきたいのは「歴史観を持て」ということだ。
(P136)

それは非常にごもっともなんですが、国民がこの3つを並べられて思い浮かべる人物は恐らく小沢一郎ではなく小泉純一郎であろうという事が悲劇的ですらある。*2

第五章 21世紀、日本の外交

ここでは小沢一郎の外交・安保政策のキモとも言える「国連軍構想」が語られている。
少々長いが引用する。

国連に「御親兵」を
今のアメリカの過ちは、世界の平和を自国だけの力で維持できると過信しているところにある。
たとえば現在のイラクの混乱にしても、やはりアメリカが「これはアメリカの戦争である」として、国連による決議をいった手続きを経ずに戦争を開始してしまったことがそもそもの誤りだった。
戦争が一応終結した後、抵抗運動やゲリラ活動が止まない最大の理由は、イラクの人々がアメリカの戦後統治に対して「大義が無い」と感じているからにほかならない。結局はアメリカ一国の国益のためにやっていることではないか、とイラクの人々は感じている。
これがもし、アメリカが最初から国際協調の中でイラク問題を処理していたら、ここまで戦後統治に苦労することはなかったはずだ。
そうした事実をみるにつけても、やはり僕は国連の存在が世界平和の鍵になると思うのである。
もちろん、現在の国連がさまざまな問題点を抱えているのは僕も承知している。
しかしながら、現時点において、地球上の主権国家のうち、190カ国以上が加盟している国際組織は国連以外にはない。だとすれば、この国連をいかにして、より実効性を持った組織にしていくかに知恵を絞っていくのが最前の選択だと僕は思う。
といっても、今の国連には残念ながら、平和のための実力行使を行う自前の警察力、軍事力がない。現在の国連の枠組みでは、国連が平和維持活動を行うときには各国からの軍隊がそれに参加することになっているわけだが、それではしょせん「借り物」にすぎない。
国連が本当の機能を果たすためには、やはり常設の警察軍を自前で持つのが理想である。
しかし、国連がみずから独自の警察軍を創設することは、今の世界情勢ではほぼ絶望的であろう。
そこで僕がかねてから理想として提唱しているのが、日本が世界に先駆けて、国連にその力を提供することである。
(中略 明治維新時の薩長土が政府直轄軍になった事例を紹介)
僕は、この明治維新の故事にならって、日本は今こそ国連に「御親兵」を出して、世界平和へのわが国の姿勢と理念を世界にアピールしていくべきだと思っている。
今こそ日本国憲法の精神を
といっても、現在の自衛隊をそのまま国連に差し出すのは内外から誤解を受ける恐れがある。だから自衛隊とは全く別に国連専用の組織を編成し、これを提供するわけである。もちろん、その場合、その部隊は国連事務総長の指揮下に入る。

書き出してみたけどやっぱりこれは無いよなぁ。
まず一番に国連はそれほど信用されてねーんじゃね?ってとこか。
何といっても国連は常任理事五カ国の合意が無ければ何一つ行うことができない組織であるというのが一番だろう。北朝鮮問題でも中ロ2カ国の同意を得るために様々な交渉が行われているのを見ても、常任理事国の国連におけるポジションを垣間見ることができる。
特に問題が常任理事国の国益にかぶると交渉は急激に難しくなる。
そんな中で国連直属の軍事力を持ったところで何が違うのかと。
更には、国連の事務方の長でしかない国連事務総長直属の部隊となるとそれは国土を持たない新たな国が発足するのと似たインパクトを持ち、更には事務総長の罷免は国連憲章で規定されていないため*3事務総長の暴走に対してストッパーが存在しないことになる。
他にも問題は様々にある。
国連で独自の軍事力を持つといってもその性質上多国籍軍になると考えるのは当然の帰結だろう。
そうなると軍備の問題が出てくる。
各国の軍備は特に最新鋭のものであればあるほど国家のトップシークレットとなる。それを国連軍の名の下に他国に公開を望む国は皆無だろう。
となれば自然実効力の劣る軍備が提供されることになるわけで、特に先進国の絡んだ紛争に対して有効な活動が出来るかは極めて強い疑問が残る。
また、いくら国連軍といえどもそれを構成する兵士は依然として自らの国家をバックグラウンドを持つわけで、どんな兵士であろうとも自国への侵攻、進駐を快く思うわけがあるまい。とすれば自然と軍としての統制は乱れるわけで。

仮に国連待機軍が実現した世で日本に中国が侵攻した場合どうなるだろうか。
中国は常任理事国であるため国連決議は100%通らない。アメリカは日米安保に従って日本の防衛を行うだろう。ロシアは静観もしくは中国に同調、イギリスフランスは静観だろう。
そして国連待機軍は動かない。
結局のところこう見れば小沢一郎の国連待機軍構想などというものは絵に書いた餅にも満たないただの理想論でしかないのだと分かる。
これこそが小沢一郎を、民主党を推せない最大の理由だ。

第五章 日本復活は教育から

この章では現状の問題点として誰も責任を取らないで済む今のシステムを挙げている。
凡そ内容として納得できるものかと。

全体的に見て

これが自民党総裁の書いたものであれば着目に値する書だろうというのが率直な感想。
どれだけ良い理念を持っていても信念を抱いていても政権を取らなければ絵に描いた餅。それが民主主義なわけで、不祥事スキャンダル不見識ノーモラル山盛りで国民の政治離れをフル加速してる民主党。それを立て直す事こそが小沢一郎という政治家の真価の見せ所だと思う。
逆にこれで変わらないようであれば民主党は社会党のような泡沫政党に成り下がるだろう。
これからの小沢一郎がどのような動きを見せるのか注目していきたい。

*1第19回参議院議員通常選挙

*2:歴史観については、小泉純一郎が歴史について積極的に語ってこなかったこともあり異論もあるとは思うが。

*3:附則とかにあるのかな